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奈良地方裁判所 昭和51年(行ウ)4号 判決

奈良市水門町八番地

原告

中西重久

右訴訟代理人弁護士

吉田恒俊

奈良市登大路町八一番地

被告

奈良税務署長

上田富雄

右指定代理人

饒平谷正也

林田光教

松本有

間谷満男

阪本格司

中西昭

元屋実

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五〇年二月七日付でなした

(一) 原告の昭和四六年分事業所得金額を二二九万〇、八八五円とする更正決定中一四〇万円を超える部分及び過少申告加算税六、〇〇〇円の賦課決定

(二) 原告の昭和四七年分事業所得金額を二二五万五、一二一円とする更正決定中一六〇万円を超える部分及び過少申告加算税四、三〇〇円の賦課決定

(三) 原告の昭和四八年分事業所得金額を二三二万八、二七六円とする更正決定中金一八〇万円を超える部分及び過少申告加算税一七万一、二〇〇円の賦課決定

はいずれもこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は彫塑業を営むものであるが、昭和四六年から同四八年までの各年分の所得税について、総所得金額(事業所得金額)をそれぞれ一四〇万円、一六〇万円、一八〇万円とする確定申告をなしたところ、被告は、昭和五〇年二月七日付で、請求の趣旨1(一)ないし(三)記載のとおり右各年分の総所得金額を更正する旨の更正処分及び各年分所得税につき、同記載のとおり過少申告加算税を賦課する旨の賦課決定(以下これら各処分を一括して「本件各処分」という。)を行った。

2  原告は、本件各処分を不服として昭和五〇年四月五日付で異議申立をしたが、同年六月二七日付で棄却の異議決定がなされ、ついで、国税不服審判所長に対し本件各処分につき審査請求をしたところ、昭和五一年三月一八日付で右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決がなされ、右は同年三月二八日頃原告に通知された。

3  しかしながら、本件各処分は、原告が求めた民主商工会の事務局員の立会を拒否し、実質的な審議を一度も行なうことなしに反面調査を行ない、これによる推計をもとにしたものであり、手続的にも違法不当な処分であるほか、内容的にも所得の認定が過大であり、経費の認定が過少であるなどの違法がある。

よって本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認め、同3は争う。

三  被告の主張

1  手続の適法性

原告は、調査の際に税務代理行為をすることのできる資格を有しない第三者の立会を求めたので、原処分庁がこれを拒否したところ、原告は調査に応じなかった。そこで、原処分庁はやむを得ず原告の取引先等を調査して総所得金額を推計したものであり、本件各処分に手続上の違法はない。

2  課税の根拠

原告の係争各年分の総所得金額は、各年分の売上金額から売上原価と必要経費を控除したものとなるところ、右金額は以下のとおりそれぞれ三五四万四、一一一円、三〇六万六、八二二円、四〇五万四、九六七円となり、いずれもその範囲内でなされた本件各処分に違法はない。

〈1〉 各年分の売上金額について

原告は住所地において、楠木による「エト」一刀彫を製作し、大神神社・石清水八幡宮・春日大社ほかの各神社に納入している。昭和四六年から同四八年までの各年分の売上金額は、右各納入先の調査による実額が判明しており、その明細は別表一の1ないし3のとおりである。

〈2〉 各年分の売上原価について

各年分の原告の売上原価は別表二のうち同欄記載のとおりである。これを原価各費目ごとに計算根拠を細説すれば以下のとおりである。

(一) 昭和四六年分

(1) 主材料費

「エト」一刀彫(以下単に「エト」という)の一個当たりの製作に必要な楠材の量に売上個数を乗じたものを材料総費消量として、これに楠製材の一立方メートル当たりの単価を乗じたものを主材料費とした。すなわち、製作過程において生ずる材料のロスを考慮して、必要容積を桐箱内容積と同一と仮定すると、「エト」(大)一個の容積は六八三立方センチメートル、「エト」(小)のそれは一六三立方センチメートルである。これに昭和四六年分の売上個数である(大)五八九個、(小)一一、五六七個をそれぞれ乗じたものを合算すると年間の材料費消量二・二八七七〇八立方メートルが得られる。ところで、楠製材(原木)一立方メートル当たりの単価は、原木価格二万二、〇〇〇円、仲介手数料四、四〇〇円、製材費二、八七五円の合計二万九、二七五円となるが、現実に使用に耐えうる歩留り率は、このうち約六〇パーセントであるから、純主材料一立方メートルあたりの単価は右金額を歩留り率六〇パーセントで除した四万八、七九二円となる。

したがって、主材料費は、四万八、七九二円に前記二・二八七七〇八立方メートルを乗じた一一万一、六二二円となる。

(2) 桐箱代

「エト」(大)の桐箱代は、仕入単価(実額)二〇〇円に売上個数五八九個を乗じた一一万七、八〇〇円であり、「エト」(小)の桐箱代は、仕入単価(実額)四四円に七、六〇〇個(春日大社納入分の三、九六七個については、同大社で箱の用意をしているため控除した)を乗じた三三万四、四〇〇円となり、合計四五万二、二〇〇円となる。

(3) 紙代

「エト」(大)と「エト」(小)の包装に要する薄葉紙の単価は、ほぼ同質の薄葉紙の通常小売価格(四六判一連で一万〇、四〇〇円)を基準に推計すると「エト」(大)用の紙が一円七四銭、「エト」(小)用の紙が五二銭である。所要数量は、売上個数(但し、春日大社納入分の三、九六七個は控除する)に対応するが、「エト」(大)の個数を五九〇個、「エト」(小)を七、六〇〇個として計算すると、紙代合計額は四、九七九円となる。

(二) 同四七年分

昭和四七年分売上原価についても売上原価の内容及び計算方式は前記昭和四六年分売上原価と同様であり、原価各費目の計算は左のとおりである。

(1) 主材料費

材料総費消量は「エト」(大)につきその容積六八三立方センチメートルに売上個数三〇四個を乗じたものと、「エト」(小)につきその容積一六三立方センチメートルに売上個数九、七六一個を乗じたものを加えた一・七九八六七五立方メートルとなる。そして、楠製材一立方メートル当たりの単価は、原木価格三万円、仲介手数料四、四〇〇円、製材費二、八七五円の合計三万八、八七五円を歩留り率六〇パーセントで除した六万四、七九二円となる。

したがって、主材料費は右六万四、七九二円に一・七九八六七五を乗じた一一万六、五四〇円となる。

(2) 桐箱代

「エト」(大)の桐箱代は、仕入単価二三〇円(昭和四六年分に対する上昇率を一五パーセントとして計算)に売上個数三〇四個を乗じた六万九、九二〇円であり、「エト」(小)の桐箱代は、仕入単価五一円(前記同様一五パーセントとして計算)に売上対応個数七、四五七個(春日大社納入分を除く)を乗じた三万〇、三〇七円となり、合計四五万〇、二二七円となる。

(3) 紙代

単価は昭和四六年と同一にして、売上個数を同様に乗ずると、合計四、四二〇円となる。

(三) 同四八年分

(1) 主材料費

材料総費消量は「エト」(大)につきその容積六八三立方センチメートルに売上個数五六〇個を乗じたものと、「エト」(小)につきその容積一六三立方センチメートルに売上個数一万〇、七六三個を乗じたものを加えた二・一三六八四九立方メートルとなる。そして、楠製材一立方メートル当たりの単価は、原木価格四万五、〇〇〇円、仲介手数料九、〇、〇〇円、製材費二、八七五円の合計五万六、八七五円を歩留り率六〇パーセントで除した九万四、七九二円となる。

したがって、主材料費は右金額に前記二・一三六八四九を乗じた二〇万二、五五七円となる。

(2) 桐箱代

「エト」(大)の桐箱代は、仕入単価二五〇円(昭和四六年分に対する上昇率を二五パーセントとして計算)に売上個数五六〇個を乗じた一四万円であり、「エト」(小)の桐箱代は、仕入単価五五円(前記同様二五パーセントとして計算に売上対応個数九、二七六個(春日大社納入分を除く)を乗じた五一万〇、一八〇円となり、それらの合計六五万〇、一八〇円となる。

(3) 紙代

単価は昭和四六年と同一にして、売上個数を乗ずると、合計五、八〇一円となる。

〈3〉 各年分の経費について

原告の各年分経費は、別表二のうち同欄記載のとおりである。これを各年毎に各費目別の計算根拠を示せば、以下のとおりである。

(一) 昭和四六年分

(1) 公租公課

(イ) 固定資産税

土地、家屋については、事業の用に供している部分をいずれも五〇パーセントとし、昭和四八年分の右税額から算出すると、土地九、〇八五円、家屋三、八八五円となる。

(ロ) 自動車税

原告の長男重仁が所有する自動車の自動車税は、昭和四六年分については、登録が同年一一月三〇日であるので一ケ月分の二、〇〇〇円となり、原告の事業の用に供する割合を五〇パーセントとし、一、〇〇〇円とした。

(ハ) 印紙税

領収書貼用印紙は二〇円であるところ、納入先が延べ四ケ所であるから八〇円となる。

(2) 荷造運賃

原告は、「エト」の受注、納品及び代金の受領に際して、いずれも自動車を使用したので、その自動車の燃料費が荷造運賃となるところ、右燃料費を左のとおり計算した。

年間走行距離は一、〇五六キロメートルであり、ガソリン一リットル当たりの価格は五一円であるから、その燃料費は六、七三二円となる。

(3) 水道光熱費

水道料、電気料、年間実額各四、四六七円、一万八、四五四円の合計二万二、九二一円であるがそのうち事業の用に供した割合を五〇パーセントとして計上すると、一万一、四六一円となる。

(4) 旅費交通費

道具類の購入等に使用される交通機関に支払われるもので、通常月額二、〇〇〇円程度、年間二万四、〇〇〇円が必要限度と解される。

(5) 通信費

年間の電話通話料金(実額)は一万五、一七〇円であるが、うち事業の用に供する割合を五〇パーセントとして計上すれば、七、五八五円となる。

(6) 接待交際費

納品先各神社に対する奉納清酒代(実額)として清酒特級一・八リットル入り六本で七、五〇〇円となる。

(7) 修繕費

道具類及び建物等の修繕費として原告の申立額四万円を計上した。

(8) 消耗品費

彫刻のみ等の補充に要する費用を次のとおり積算した。

のみ 五本 単価五、〇〇〇円 二万五、〇〇〇円

小刀 二本 〃二、〇〇〇円 四、〇〇〇円

きり 二本 〃一、〇〇〇円 二、〇〇〇円

のこ 二本 〃三、〇〇〇円 六、〇〇〇円

砥石 一個 〃一、〇〇〇円 一、〇〇〇円

前垂れ 二枚 〃 三〇〇円 六〇〇円

以上合計 三万八、六〇〇円

(9) 諸会費

向彫会費(年間) 一万二、〇〇〇円

民商会費(右同) 二万〇、四〇〇円

以上合計 三万二、四〇〇円

(10) 減価償却費

(イ) 自動車

原告の長男の自動車は、昭和四六年一一月頃に七〇万円で取得したものであるから、定額法によって償却費を求めると、一万七、四三〇円となり事業の用に供している割合を五〇パーセントとして計上すると八、七一五円となる。

(ロ) 建物

原告が昭和四五年八月に建築した奈良市水門町八番地の木造・瓦葺・平家建・床面積七四・五七平方メートルの建物の取得価額は、約七〇万円と推定されるので、定額法で計算すると、二万四、五七〇円が償却費となる。そして、右建物の事業の用に供された割合を五〇パーセントとして計上すると、一万二、二八五円となる。以上(イ)、(ロ)の合計は二万一、〇〇〇円となる。

以上の(1)ないし(10)の合計は二〇万三、三二八円であり、右が昭和四六年分経費である。

(二) 同四七年分

(1) 公租公課

(イ) 固定資産税として、土地九、〇八五円と建物三、八八五円の合計一万二、九七〇円。

(ロ) 自動車税として、一万二、〇〇〇円

(ハ) 印紙税として、一八〇円

(2) 荷造運賃

年間走行距離一、五五六キロメートルとして、ガソリン一リットル当たりの価格を五一円として計算すると、九、九二〇円となる。

(3) 水道光熱費

水道料年間四、三五〇円、電力料年間一万八、四五四円であり(以上はいずれも実額である。)、経費率を五〇パーセントとすると経費算入額は、それぞれ、二、一七五円、九、二二七円となる。

(4) 旅費交通費として、二万四、〇〇〇円(ただし昭和四六年分と同様の根拠による。)

(5) 通信費

年間電話通話料一万三、七六七円であり、経費算入額は六、八八四円である。

(6) 接待交際費

奉納清酒代として一万円(前同特級清酒一・八リットル入り八本)

(7) 修繕費 三万円

(8) 消耗品費 三万八、六〇〇円

(9) 諸会費 三万二、四〇〇円

(10) 減価償却費

自動車は五万二、二九〇円、建物は一万二、二八五円の合計六万四、五七五円となる。

以上(1)ないし(10)の合計二五万二、九三一円が同年分必要経費である。

(三) 同四八年分について

(1) 公租公課

(イ) 固定資産税一万二、九七〇円(前同五〇パーセントを経費とする)

(ロ) 自動車税一万二、〇〇〇円(右同)

(ハ) 印紙税として二二〇円

(2) 荷造運賃

年間走行距離一、八七〇キロメートルとして、ガソリン一リットル当たりの価格を八一円で計算すると、一万八、九三四円となる。

(3) 水道光熱費

水道料年間四、九〇〇円、電力料年間二万七、六一九円(以上実額)であり、経費算入額はうち五〇パーセントのそれぞれ二、四五〇円、一万三、八一〇円となる。

(4) 旅費交通費

前年分と同額の二万四、〇〇〇円のほか桐箱仕入のため広島県府中市への往復に要した旅費一万円を加算し、合計三万四、〇〇〇円となる。

(5) 通信費

年間電話通話料一万五、五五二円(実額)であり、経費算入額は五〇パーセントの七、七七六円である。

(6) 接待交際費

奉納清酒代として一万〇、八〇〇円

(7) 修繕費

原告の申立額三万円のほかに、自動車の定期検査に要した費用一〇万円のうち、事業の用に供した割合を五〇パーセントとして計上した五万円を合算して、八万円となる。

(8) 消耗品費

のみ等の購入費として三万八、六〇〇円、「エト」寅の彩色に要した絵具及び筆の購入費として六、〇〇〇円の合計四万四、六〇〇円となる。

(9) 諸会費

三万二、四〇〇円(前同)

(10) 減価償却費

自動車の減価償却費は五万二、二九〇円、建物のそれは一万二、二八五円であり、以上の合計六万四、五七五円となる。

以上(1)ないし(10)の合計三三万四、五三五円が同年分経費である。

3  以上のとおりであって、〈1〉の各年分売上金額から対応年分の〈2〉の売上原価及び〈3〉の経費を控除すると、別表二記載のとおり事業所得金額が算出される。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は争う。

2  同2〈1〉の売上金額は争う。同〈2〉のうち「エト」の桐箱の内容積が(大)、(小)とも被告主張のとおりであることは認める。同〈3〉の経費については(1)ないし(10)のいずれの費目についても争う。

五  原告の反論

1  売上原価について

主材料である楠の原木および桐箱代について単価を設定して計算すると左のとおりである。なお、原木および桐箱ともロスが出るので、納品(売上)分より個数は多くなっている。

〈1〉 昭和四六年分 一三九万六、七〇〇円

(大) 六二〇個×(二二〇+二四〇)円=二八万五、二〇〇円

(小) 一万一、七〇〇個×(三五+六〇)円=一一一万一、五〇〇円

〈2〉 昭和四七年分 一二一万三、二〇〇円

(大) 三二〇個×(二五〇+二六〇)円=一六万三、二〇〇円

(小) 一万個×(四〇+六五)円=一〇五万円

〈3〉 昭和四八年分 一六九万二、〇〇〇円

(大) 六〇〇個×(三〇〇+三二〇)円=三七万二、〇〇〇円

(小) 一万一、〇〇〇個×(四〇+八〇)円=一三二万円

(但し、右計算式のうちカッコ内の前の数字は箱代を、後の数字は原木代を表わす。)

被告は、「エト」一個当たりの必要楠材を箱の内容積として計算するが、本件「エト」を製作するには約その二倍の容積量の楠材が必要である。その上、節のあるもの、われたりかけたりしたものがあり、その他の事情によるロスが約一〇パーセントにのぼり、更に平均して一〇パーセント程度の納品残りを生ずる。したがって、二〇パーセント程度の材料の損失は原価として計上すべきである。

2  必要経費について

原告の職業は彫塑家であり、彫塑製作の費用は全て必要経費である。原告の所得を算定する場合、彫塑家としての原告の収入と全支出をとりあげ、その差額を総所得金額とすべきである。

すなわち、本件のような注文品の製作および創造活動に当っては調査研究が必要不可決であり、そのための書籍購入費、旅費交通費等のほか、平素芸術家としての素養を高めるための研究費、交通費等も多額にのぼっている。また一つの「エト」を完成するには試行錯誤を重ね、試作段階で大量の無駄が出ることも銘記されるべきところ、被告は右必要経費を全く計上していない。右必要経費の額は別表三記載のとおりでありその詳細は左のとおりである。

(1) 研究費

創作活動には資料蒐集が不可欠であり、そのための活動費として経費算入が認められるべきである。

(2) 減価償却費

被告は原告所有の二棟の建物のうち、一棟分についてのみ減価償却費を計上するのみであるが他の一棟も作業場(アトリエ)兼応接室として使用しているのであるから右減価償却もなされるべきである。

(3) 旅費交通費

原告は各種美術展覧会の見学、情報交換、日展応募等のため、少なくとも年七回は上京し宿泊している。右費用もまた経費に算入されるべきである。

(4) 消耗品費

「エト」作りのための試作品をつくるのに多数のロスがあり、そのための諸道具の消耗も多額にのぼる。

(5) 接待交際費

原告は芸術家として交際の範囲が広く、たまにはクラブや料亭に行くこともあり、一ケ月三万円内外の出費は最低必要である。

(6) 昭和四六年分同四七年分についても絵の具および筆の購入費は必要経費に含まれる。

以上から、本件各年分の収支計算は原告の記憶による限り、別表三記載のとおりとなる。

3  なお、被告は、本件訴訟において原告の売上原価及び経費につき実額(及び推計)計算をしているが、本件何ら帳簿・記録のない原告の課税額算定において右計算は無理であって到底合理性を持ちえない(ちなみに不服審判においては同業者比率を用いて売上原価及び経費の合算額を算出し、昭和四六年分につき一九九万二、七四五円の控除を認めている。右金額は単なる職人のそれであって未だ原告の主張する控除金額にはほど遠いが、本件訴訟において被告の主張する控除金額八〇万円弱に比べればはるかに合理性を有しており、右比較をみても、いかに本件の被告の計算が実情に合わない非常識なものであるかが明らかであろう)。

第三証拠

本件記録中の書証目録および証人等目録記載のとおり。

理由

一  まず、原告は、民主商工会事務局員の立会を拒否するなど本件更正処分手続には、手続上の違法があったと主張するが、税務代理行為に関する有資格者でない一般第三者には、税務調査に際して立会の権限はないから、その立会を拒否したからといって右調査手続が違法となるわけではなく、また弁論の全趣旨によれば、被告は反面調査等による証拠資料の収集、証拠の評価および経験則を通じての要件事実の認定、租税法令の解釈適用を経て本件各処分に至ったことが窺われるので、右更正処分手続に処分の内容に影響を及ぼす違法はなかったことが窺われる。したがって、原告の右主張は採用できない。

よって進んで処分の内容について検討する。

二  売上高(収入金額)について

成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし四、第三、四号証の各一ないし三並びに原告本人尋問の結果を総合すると、原告は肩書住所において中西弘馨と号し、彫塑業を営むもので主として、大神々社、石清水八幡宮、春日大社、貴船神社等に干支(以下エトという)の一刀彫人形を奉納しているものであり、昭和四六年ないし同四八年分の各売上高(収入金額)は、被告主張のとおりであることを認めることができ、他にこれを動かすに足る証拠は存しない。

三  そこで次に必要経費につき検討する。

(一)  売上原価

証人岡本至功の証言とこれにより成立を認めうる乙第五号証の一ないし四、第六、七号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる同第八号証の一ないし三によれば、一刀彫の素材として使用する主材料楠材の昭和四六年分価格並びにこれに減損率四〇パーセントを乗じて得た実質使用分の価格はいずれも被告主張額が相当であり、又副材料である桐箱代および紙代の価格も被告主張のように認めることができる。

原告は、楠材の所要量は、箱の内容積の二倍に相当し、かつ失敗作のロス、納品残の合計二〇パーセントの損失があると主張するけれども、原告本人尋問の結果によれば、楠材の所要量は、ほぼ箱の内容積に等しいことが認められ、又その損失割合は、前示減損率を下回わるものであるから採用できず、その他原告本人尋問の結果によって成立を認めうる甲第五、六号証によっても、右認定を左右するに足らない。

(二)  その他の経費

1  公租公課

成立に争いのない乙第九号証の一ないし三によれば、原告の昭和四八年分固定資産税、都市計画税の納税額は、被告主張のとおりであることが認められるからこれを基本として各年分の必要経費相当額をその五〇パーセントとして計算し、なお、妥当と認められる自動車税、印紙税額を加算した被告主張金額は相当である。

2  荷造運賃

証人岡田昌幸の証言とこれにより成立を認めうる乙第一〇号証の一ないし八(第一〇号証の八の官署作成部分の成立は争いがない)並びに弁論の全趣旨によれば前掲各納品先までの往復距離に納品回数を乗ずると被告主張の自家用車による走行距離が得られるので、これに相当と認められるガソリンの価格を乗ずると、被告主張の運賃を認めることができ、荷造費については、認めるに足る証拠がないのでこれを加算することができない。原告本人尋問の結果によれば、レンタカーを借用した場合もあるというのであるが、その金額を認めるに足る証拠がないので、採用できない。

3  水道光熱費

成立に争いのない第一一号証の四、第一二、一三号証の各三、証人岡本至功の証言とこれにより成立を認めうる同第一一号証の一ないし三、第一二、一三号証の各一、二によれば、記録のない昭和四六年一ないし三月分水道代並びに同四七年一ないし三月分電気代については被告主張のように推認できるので、金額についてもその主張額をもって相当と認める。

4  旅費交通費

成立に争いのない甲第二ないし四号証、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告は、奈良地方において名を知られた彫塑家であり、各地展覧会への出品等のため年数回、東京、京都、大阪等へ出張することが認められ、その旅費交通費をすべて事業所得を得るに要する経費とすることはできないが弁論の全趣旨によれば関連性が全くないともいい切れないので、前示証拠に鑑み少くとも年五万円をもって必要経費たる旅費交通費と認めるのが相当である。

5  通信費

成立に争いのない乙第一四号証の四、証人岡本至功の証言とこれにより成立を認めうる同第一四号証の一ないし三によれば、被告主張の金額を認定することができる。

6  接待交際費

証人岡本至功の証言とこれにより成立を認めうる乙第一五号証によれば、清酒奉納費として被告主張の金額を認めるのが相当である。

原告は右以外にも、月三万円内外の交際費が必要であると主張するけれども、原告本人尋問の結果によっても認めることができずその他には認めるような証拠がないので採用できない。

7  修繕費

修繕費については、被告主張額につき争いがない。

8  消耗品費

証人吉田秀夫の証言とこれにより成立を認めうる乙第一六号証によれば、被告主張額をもって相当と認める。

原告は、年間四二万円以上昭和四六年分は四五万円を要したと主張するが、その事実を認めるような証拠がない。

9  諸会費

弁論の全趣旨によれば、被告主張額をもって相当と認める。

原告は年間三万五、〇〇〇円を要するけれども内訳が明らかではなく、認めるような証拠がないので採用できない。

10  減価償却費

成立に争いのない甲第八号証の二、弁論の全趣旨とこれにより成立を認めうる乙第一八号証の一ないし三によれば、昭和四六年一一月三〇日登録された原告の長男重仁の妻の姉田中ヨウコ名義の自動車一台は、原告の事業活動に使用された自家用車であり、その減価償却費は、被告主張の金額をもって相当とし、更に昭和三五年八月二日建築した原告所有の居宅につき事業費率を五〇パーセントとして計算した減価償却費は相当である。

しかし成立に争いのない甲第八号証の一と原告本人尋問の結果によれば、原告は右建物の外、昭和四六年二月一五日新築にかかる、奈良市水門町三七番地五所在家屋番号三七番五、鉄骨造陸屋根一部亜鉛メッキ鋼板板葺二階建居宅、床面積一階六五・三九平方メートル、二階二四・三七平方メートルを所有し、これをも事業の用に供していることが認められるが、建築費については認めるような証拠がなく原告本人も記憶がないような供述をする。

そこで成立に争いのない甲第九号証の一によって認められる昭和五一年度固定資産評価額金一三五万八、四三〇円をもって建築費と推定したうえ、右建物の骨格部分の鉄骨の厚さは不明であるため原告に一番有利な三ミリメートル以下、耐用年数を二〇年とし、定額法により償却率〇・〇五、事業費率五〇パーセントを乗ずると、経費に算入されるべき償却費は、昭和四六年分金二万六、七四四円、同四七、四八年分はいずれも金三万〇、五六四円となるので、これも加算すべきである。

11  雑費

原告は、以上の外に雑費(研究費)を要すると主張するが、使途及び具体的金額を認めるに足る証拠がないので採用しない。

四  そうすると、各年分の売上高(収入金額)から売上原価およびその他の経費を控除した原告の事業所得金額は、昭和四六年分金三四九万一、三六七円、同四七年分金三〇一万〇、二五八円、同四八年分金四〇〇万八、四〇三円となり、いずれもその範囲内でなした被告の本件各処分は、適法で、その取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却を免れない(なお、原告は、本件につき推計課税をなすべき旨の主張をするけれども、所得課税においてはなるべく実額課税によるべきことはいうまでもないから右主張は、主張自体理由がない)。

五  よって訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲江利政 裁判官 三代川俊一郎 裁判官広岡保は転任のため暑名捺印できない。裁判長裁判官 仲江利政)

別表 一の1

昭和46年分 売上金額の明細

〈省略〉

別表 一の2

昭和47年分 売上額の明細

〈省略〉

別表 一の3

昭和48年分 売上金額の明細

〈省略〉

別表 二 収支計算書

〈省略〉

別表 三 収支計算書

〈省略〉

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